花を飾った君に、いつか

顔を上げる前に、目いっぱいジャージの深い紺色が広がる。



肩にだらんと重たいのは夜依くんの腕、土の私と違ってお花の匂いがする夜依くんの服。



...だ、抱き、んえ?、ぎゅって、されて



遠くから歓声が聞こえるけれど、葉がたくさんの木に邪魔されてグラウンドは見えない。



おかげでいつもより早い心臓の音が夜依くんにも届いてしまいそうだ。



「恋色が1番取りたかったの、俺のため?」


「このままじゃ夜依くんが悪く見られちゃう」


「...今日ね、恋色の笑顔何回見られるかなって楽しみだった。
だから俺は、恋色の笑った顔が見られれば何位だっていいよ」


「...も、もっとゆっくり言って?!だめ全然頭が仕事してくれない、え、巳夜くんもういっかい」



「かっこよかったよ、恋色。惚れ直した。
次借り物競走だから、じゃあね」



夜依くんが触れたところだけあたたかさを残してグラウンドのほうへ行ってしまった。



反復、反復。



巳夜くんの口から出た言葉を思い出しては首をかしげる。



時間にして数十秒の会話は、壊れたビデオのように繰り返し再生された。



再生されて、少しずつ声音を忘れていってしまう。なんせ壊れているから。



三次元で再現できるギリギリを狙ったかのような綺麗な顔は、解けるような笑みを浮かべていた。私だけに。
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