真面目な鳩井の、キスが甘い。
 まだなにか言いたげなだーさんから逃げるように私たちは控室を後にした。

 鳩井と二人、出口に向かって廊下を歩いていく。


「は~!無事に終わってよかったよかった!撮影、ゲームしたり楽しかったね~♪」

「……うん」


 鳩井のぬるい返事で、そのクタクタ具合がよくわかる。


「今日は来てくれてありがとね~鳩井!嬉しかった!」
 
「……ならよかった」


 鳩井は貰ったマスクをつけたままで、その表情はよく見えない。


 ……結局鳩井には、今回どうして引き受けてくれたのかちゃんと聞けてない。


「……あー、雑誌発売されたら、公認カップルになっちゃうねー!」


 私は明るいテンションにまぎれさせて、鳩井の反応を試すようなことを言う。

 
「そうだね」

 
 鳩井はそう呟くように言っただけで、感情の色ひとつ見せない。




 ――なるべく、静かに過ごしたい




 ……もし

 もし鳩井が私のためになにかを我慢してくれてるんだとしたら

 本当にこのまま公認カップルになっちゃって、いいのかな



 私は鳩井の横顔に、心の中で話しかける。
 

 
 ねぇ、鳩井。

 今日来たこと、後悔してる……?



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