小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
会議室の外は、トイレに行く人や喫煙所に行く人、挨拶を交わす人でごった返していた。

どこだ・・。
このままだと、見つける前に彼女は国際会議場を出てしまう。

休憩時間が終わりに近づき、だいぶ人の数が減ってきたところで、ようやく彼女らしき後ろ姿を見つけた。

「おっ、西島!」

先に声を上げたのは高浜教授だった。
彼女が驚いた表情でこちらを振り返る。

「高浜教授、いらしてたんですか。神崎先生も」

彼女と話をしていたのは、高浜教授と神崎先生だった。
俺は彼女の横に立ち、ふたりに会釈する。

「ああ、神崎の雄姿を見つつ、茉祐子ちゃんに会いにな」

「茉祐子・・ちゃん・・・・?」

高浜教授が彼女を『茉祐子ちゃん』と呼んだことに、違和感を感じた。
以前、大学病院で話をした時には『美人の翻訳家さん』としか言っていなかったはず・・。

「おい高浜、ひと前で大人の女性を呼ぶのに『ちゃん』は無いだろう」

「あっ、ああ・・そうだな。寺嶋さん、申し訳ないね。西島の前だから油断したよ」

「いえ、お気になさらず・・。それより、そろそろ次のアジェンダが始まるんじゃないですか?」

彼女が促すと、ふたりは腕時計に視線を落とす。

そういえば、神崎先生は迎えに行った時と髪型が違うんだな・・。
あの時は、長時間フライトのすぐ後だからヘアセットをしていなかっただけなのか、今日は整髪料でしっかりセットされていた。

「神崎は次もコメンテーターなのか?」

「いや、次は会議室の端で傍観者だ。じゃあ、西島くん、寺嶋さん、僕らはここで失礼するよ」

ふたりが会議室に向かって振り返ったタイミングで、俺と彼女は頭を下げた。

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