小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
帰宅し、靴を脱いで玄関に上がったところで深く息を吐いた。

さすがに・・疲れたな。
いろいろあったから。

ぼんやりしていると、彼女がリビングから戻ってきて俺の口にビターチョコレートを入れる。

「飲むでしょ? ロックでいい?」

「うん・・冷凍庫の奥に、丸い氷があるからそれで飲もう。あ、茉祐におすすめのウイスキーがあるんだ」

「おすすめ?」

「柑橘系でフルーティな香りがするっていうから、茉祐と飲みたくて買った・・けど。その前に・・」

俺は、彼女にもたれるように抱きついた。
完全に、エネルギーが切れている。
そんな俺の背中を、彼女がねぎらうように撫でてくれて、なんだか泣きそうになった。


「茉祐・・」

今日は『あの男』の正体が分かって。
それは、神崎先生で。
彼女が『酔った勢いで神崎先生を「お父さん」と呼んでしまった』ことを聞いた。


「茉祐・・」

神崎先生を彼女のお母さんに会わせて。
この先どうしたいのかを、彼女と確かめ合って。
神崎先生に結婚の許しを願い出て。
彼女を・・託された。


「俺で・・いい?」


不安に襲われて、思わず口にした。

逃げ出したくなったとか、そういうことじゃない。
急な展開に、心が追い付いていないだけだろう。

俺は聞きたかった。
彼女に、本当に俺でいいのか・・を。


もたれかかっていた俺をぎゅっと抱き締めてから、彼女は耳元で囁いてくれた。


「もちろん、祐一郎がいい」


俺は、俺を選んでくれた彼女の腕の中で、少しだけ泣いた。

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