中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら甘めに愛されました。

 リサが初めて神殿で祈りをささげたあの日、かわいらしい箱が彼女の左肩の上に浮かんだ。

『やあ、僕はシスト。よろしくな?』

 封印の箱は、聖女に関する絵画では、必ず描かれる物体だ。
 初代聖女の肖像画を除き、全ての聖女の左肩の上で回っている。
 だがこれは、重厚に描かれる封印の箱と比べて、あまりにも可愛らしい。本物なのだろうか。

「――――神聖さのかけらもない姿、想像とは違うが」

 つい、そんな言葉が出てしまった。失言だったかもしれない。封印の箱は、露骨に機嫌の悪くなった声を出す。

『え? なんか文句あるの? 僕より先に守護騎士が正式な契約を結んでいるとか、前代未聞なんだけど』

 それはそうだろう。出会ったその瞬間に、自分の人生と絶対の忠誠を捧げる契約を結ぶなんて、そんな酔狂な人間が、そういるはずもない。

 それよりも、気に入らないのは。

「――――どうして、シスト様は、聖女様の御名を呼ぶことができるのですか?」
『ん? 知りたいの?』

 珍しく、彼女のそばを離れて、フヨフヨと俺についてきた封印の箱。何を企んでいるのだろうか。

『君と僕は同系列だ。シストでいい。……そうだね、そう願うなら、君も守護騎士なんてやめて、僕みたいな存在になればいい』

 シストがポロリとこぼしたその言葉。それだけは、いつもの軽い口調ではなかった。
 後から考えれば、意味が深い言葉だったのかもしれない。

 中継ぎという周囲の評価。それなのに、魔獣の数は日々増えていく。
 まるで、伝記や神話に描かれる、魔人が現れる予兆のように。

 だが、その事に気が付いているのは、ごく一部の人間だけだ。
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