中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら甘めに愛されました。

嘘をつけない魔術師と喋らない剣聖


「魔獣がスタンピードを起こした? 聖女がいない? 守護騎士は?」

 国王陛下が、今日何度目かの怒りを爆発させる。飛んできた高価なグラス。そっと、ため息をついて、魔術師ミルは、風魔法でそのグラスをふんわり受け止める。

「陛下、急ぎ騎士団の編成を。剣聖の指揮下に」
「王族を守る人間がいなくなるではないか」
「…………分かりました。私たちにお任せくださいませ」

 美しいカーテシーを披露して、謁見室を去る。

 ため息が出る。魔獣が発生すれば、他の世界から無理に呼び出した聖女を最前線に立たせるようなこの国に。

「私は、魔術師なんだけど。どうして、ドレスを着て謁見しないといけないのかしらね?」
「似合う」
「あら、ロイド。珍しいわね。あなたがそんなふうに褒めるなんて。どういう風の吹き回し?」
「事実」
「……ほんと。珍しいわ」

 そう言いながらも、まんざらでもないようにミルは、頬を軽く染めた。

 伯爵令嬢という肩書きも、貴族令嬢というだけで、溢れる魔力の才能は、認められることもなかった幼少期。
 ミルたちは、訳ありだ。
 誰からも認められることもなく、その才能を時間の中に埋もれさせようとしていた。

 剣聖ロイドだって、『早く産まれすぎた無意味な天才』と、その努力も、才能も認めることがなかった。それ以上に、幼い頃、その称号を邪魔に思う貴族に攫われて、一時期行方不明にすらなっている。
 それなのに、そんなミルたちを、聖女様を、魔人の襲来が早まった途端、当然のように最前線に立たせようとするこの扱い。

「……それでも、戦ってやるわ。ただし、護るのは、聖女様を受け入れてくれる人間だけだから!」

 それにしても、危ないところだった。国王陛下が、自分に忠誠を誓うか聞いてくるなんて。
 大魔法を使う代わりに嘘をつけない制約のせいで、危うく正直に「誓うわけないっ!」と、言ってしまいそうになった。
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