先生の隣にいたかった

〜お互いのために〜


私は中学生の時、付き合っている人がいた。

桜木しゅう君。


しゅう君は大学生で、いつも学校帰りに車で、私を迎えに来てくれた。


しゅう君とは家が近く、昔からよく遊んでいた。

いわゆる幼馴染だ。

だから、告白された時は驚いた。
私は、しゅう君のことを男の子として、意識したことがなかったから。

それでも、しゅう君に、これから少しずつでいいから、一人の男として見てほしいと言われ、私たちは交際することになった。
 

でも、付き合い始めても、関係は今までとあまり変わらず、一年が経って、私が受験生になった頃だった。


学校から帰ろうと門を出た時、女子大学生らしき人が、私に向かって歩いてきた。


「あなたが、七瀬いおさん?」


「はい、そうですけど。あの、どちら様ですか?」


「しゅうと同じ大学に通っている、佐藤日菜。…あなたがしゅうの彼女さん?」


「はい…」


「…別れてくれない?」


「え…?」


一瞬、何を言われているのか、わからなかった。

でも、日菜さんの真剣な表情を見て、わかった。

日菜さんは、しゅう君のことが、本気で好きなんだと。


正直私は、しゅう君と付き合ってきたけど、

今までの関係と、あまり変わっていなかったし、

私が持ってる、しゅう君に対しての好きは、

一人の男の子として好きなのか、

友達として好きなのか、分からなかった。


でも、日菜さんのこの一言で、わかった気がする。


「…少し時間をくれませんか?」


「時間?」


「はい。しゅう君と話がしたいので」


今、はっきりわかった気持ちをしゅう君に伝えなければいけない。

このままでは、ダメだってことぐらい、分かっていたけど、どこかでしゅう君を繋ぎ止めていたんだと思う。

しゅう君と今までの関係が、崩れてしまうのではないかって思うと、怖かったから。

でも、今のままでは、誰も幸せになれない。



それに、

しゅう君を傷つける事だけは、したくないから。


「日菜?」


「しゅう!?」


「どうして、ここにいるの?」


「いや、これはその…。しゅうこそどうして?」


私は、この雰囲気に、違和感を覚えた。

今まで、しゅう君が怒っている姿なんて、あまり見たことがなかったから。

でも、どうしてしゅう君が怒っているのかは、分からなかった。


「いおを迎えにきた」


「あ、彼女さんね」


「いお、帰ろ」


そう言いながら、私の手を取って歩き出した。


「しゅう君、待って」


私がそう言っても、その言葉が、しゅう君の耳に入ることはなかった。



その後、私たちは車に乗り込み、しゅう君は無言のまま、車を走らせた。

しばらく車内は、今までにないくらい、静かだった。


「…しゅう君」


「何?」


さっきの、少し怒っているような口調とは違って、いつもの、優しいしゅう君に戻っていた。

話すなら、きっと今なのかもしれない。


「しゅう君に、話したいことがあるの」


「…今じゃなきゃいけない?」  





「……別れてほしい」

 
「どうして?…日菜に何か言われたの?」

「違うよ」


確かに、日菜さんに別れてとは言われた。

でも、日菜さんに言われたから、別れようなんて言ったわけじゃない。


「日菜さんが、気づかせてくれたんだ。自分の気持ちに」


「いおの気持ち?」


そう、私の気持ち。

私は、しゅう君のことが好き。
でも、それは恋愛としてではない。


「しゅう君は、私を好きって言ってくれたけど、今は違うよね?」


「どうして?」


「だって、最近は全然、好きって言ってくれないじゃん。それに、付き合っても、今までの私たちの関係と何も変わらなかった」


「それは違う」


「もういいんだよ。無理に、私と付き合わなくてもいい。
もう好きじゃなくなったって、言えばいいんだよ。

それに、私はしゅう君のことが好きだけど、それは友達としてで、付き合ってもその気持ちは、変わらなかった」


今まで、言えなかったことを全部伝える。


しゅう君も私も、次に進むために。



「いお、俺嫌だよ。いおじゃなきゃダメなんだ。だから」





「しゅう君……




  私たちはもう終わりだよ」


本当に、これで良かったんだよね。

私がしゅう君を解放してあげないと、しゅう君も前に進めないから。


「ごめんね。でも、今まで楽しかったよ。

しゅう君と過ごした時間。


私の初めての彼氏になってくれて、


ありがとう。



…たくさんの思い出をありがとう」



それだけ伝えて、私は車から降りた。



今までは、しゅう君が見えなくなるまで、玄関前で見送っていたけど、今は違う。



一度も振り向くことなく、足をすすめた。

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