私のお願い、届いてますか?

side 相村秀人

カーテンの向こう側へと出て行く梨々香の小さな背中を見届ける。

ふと、母さんの視線を感じて、自分の視線を繋がれた点滴へと移した。

「ふふっ、可愛いらしい子ね」

あえて、母さんの言葉には答えずに、自分のおでこに腕を置いて、気まずさを誤魔化した。

「…痛むか?」

「…結構」

少し傷口が熱を持っているようなそんな感覚がある。ズキズキというよりは、じわじわと痛みが押し寄せてくる感じ。

「あなたが無茶したことって、初めてなんじゃない?」

確かに…。

あの時は、後先考えずに、梨々香に迫り来る危険から守らないといけないと、体が勝手に動いていた。

「…うん。自分らしくない」

もっと冷静にならないと、とは今さら思うけれど、あの状況では…無理だったな。

そういえば…

「前もらった日本酒、梨々香、気に入ってたよ」

すっかり伝えるのを忘れていたことを思い出して、父さんに話すと、父さんの表情がふっと緩んで嬉しそうにした。

「…次は、一緒に飲んでみたいもんだ」

えっ…。

まさかそんな言葉が父さんから出てくるなんて思ってもいなかったから、不意をつかれて、思わず母さんを見た。

母さんも、意外だったらしく、きょとんとしている。

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