私のお願い、届いてますか?

side 相村秀人

梨々香と向かい合って、カレーとポトフを食べているというこの現実。

〝何年ぶりだろう〟

さっきの梨々香の声が頭の中でループする。

自分自身、ひどい彼氏だと思う。自分の好きなことに夢中になって、彼女との時間をずっとおろそかにしてきたんだから。

『一つのことに夢中になれるのって、すごく素敵だと思う』

付き合う直前、梨々香が言ってくれた言葉。コミュニケーションをとるのが苦手で、色々な人に散々、変人やオタク扱いされてきた俺にとって、救いの一言だった。

話の合う研究仲間としかまともに話せなかったけど、梨々香とは不思議と自分からも話しかけることができたし、自然体でいられた。

居心地が良過ぎて、甘えていたんだ。

嬉しそうに、スプーンですくったカレーを口に運ぶ梨々香を見る。

本当は〝好き〟という言葉を伝えてあげれば、梨々香は満足するって分かってる。

でも、俺の中で、その言葉は今日伝えるのは都合が良すぎると感じた。

散々ほっといて、彼女が長期の出張に行く。そんなきっかけがないと、早く帰って顔を合わせようって思わなかった。

今日の出来事に便乗して、気持ちを伝えたら、〝好き〟という気持ちが安っぽくなってしまう。都合の良いものになってしまうと思った。

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