私のお願い、届いてますか?

side 相村秀人

…終わった。

膨大な量の論文をプリントアウトして、誤字脱字がないかのチェックまで終了し、かけていた眼鏡を外した。

瞼を閉じ目頭をぎゅっと抑えて、疲労の溜まった目を休ませる。

しばらくして、ふと、カレンダーを見る。

研究の結果が出て、論文を書き出してから、10日が経過している。

毎日研究室に篭りっきりで、家に戻るのは朝方に着替えと軽くシャワーを浴びるためだけ。

たった数十分の滞在時間なのに、梨々香の生活している空気が感じられないことを敏感に感じ取ってしまう。

だから、余計に家に帰る気にならないんだと思う。

ある意味、ちょうど論文を書くタイミングでの出張で良かったのかもしれない。

飲みかけのコーヒーを飲み干してカップを洗う。

机の上に置いておくようにと、教授から伝えられていたから、論文の束を揃えて机の上に置く。

「…明後日まで、何するかな…」

梨々香がこっちに戻ってくるのは、明後日の金曜日の夜遅く。論文が提出できたら、今週はゆっくり休むようにと教授に言われている。

今まで休みなんてほとんどなかったから、いざ時間ができると何をすればいいか悩んでしまう。

…実家に…顔出すか…。

ここ数年、全く帰っていない実家のことが頭に浮かぶ。

ここまで学費も出してもらってるし、無事に論文が書けたことも報告した方がいいよな…。





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