私のお願い、届いてますか?
そして、また長い沈黙が流れる。それから10分ほど車を走らせると、地元の老舗の酒屋に着いた。

「…たまには、お前も日本酒飲んでみるといい。ビールは母さんが午前中に買ってきてたよ」

父さんは最初から俺と日本酒を飲むつもりだったんだな…。

父さんはおすすめだと言って、高級地酒の一升瓶を手に取る。そして、お店の人に、飲みやすい日本酒の小瓶を聞いて、それも一緒に購入した。

「…こっちは、お土産に持って帰って一緒に飲むといい」

「…一緒に…?」

差し出された手土産用の紙袋を見て疑問をぶつける。

「…お付き合いしている女性いるんだろう?」

えっ…

「…もしかして、最初からそのつもりでここに来た?」

「…お前は、俺と似てるから…。相手に気苦労ばかりかけてるんじゃないかって思ってな…」

父さんの言葉には、説得力があり、俺の頭の中に、一喜一憂する梨々香の表情が浮かぶ。

手を伸ばして、紙袋を受け取り、

「ありがとう」

と一言お礼を伝える。

父さんは、小さく頷いて、俺の前を歩いて車へと向かった。

父さんの背中を見つめながら、もしかして、俺に彼女ができたこと嬉しいって思ってくれてるのだろうか、と思った。


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