死グナル/連作SFホラー
閉じれない瞼⓶
農協職員:川口菜々の場合



明らかに死んだ後の世界の人…。
その顔は、そこでの人間のそれ…。
これは、はっきりと感じ取れました。


その時、私が瞼を上げるまで、あの顔を見ていた時間はほんの数秒だったようです。
とても恐ろしい数秒間でした。
これが私の瞳に死者の顔が訪れた、まさに”最初”だったのです…。


***


以後、その恐ろしい女の顔は何度も現れました。
まるで、その顔がいる別の世界に連れ込まれてる感覚…。


その間だけは、自分は死んでいる…?
あるいは、あっちの世界にワープしちゃってるのか…。


どちらにしても、気が狂わんばかりの恐怖と絶望感は、目を閉じることを怖れる気持ちに直結しました。


***


以後、私は目をつぶることの恐怖を感じるようになったのです。
夜ベッドに入っても、目を閉じるのが恐くて怖くて、なかなか眠れない…。
それは私に常態化しました。


やがて、まともな精神状態を維持することが困難なところまで至ってしまったのです。


とは言え、その恐ろしい顔が閉じた瞼の中で写っても、それで何か災いが起きたりはありませんでした。
ですから…、結局のところ、呪われた、祟られたといった認識まではなかったのです。
要するに、目に見える”実害”はないということでした。


ひょっとしたら、精神的な原因で、アレを見てしまうのだろうか…。
そう考えた私は、とりあえず病院に足を運ぶことにしました。


***


まず、脳波等には特段異常は認められず、カウンセリングを受けた結果も、精神的な面からの不安と影響してる可能性が云々と言う範疇で、何らの解決にはつながりませんでした。


そこで、私は周知の農家を営むFさんに相談することにしました。
Fさんはは50代の主婦で、以前、何気ない会話で霊能者の知り合いがいるようなことを聞いていたことから、思い切って紹介してもらうことにしたのです。


そして、数年前の春、都内某所に住むその女性霊能者の方を訪れたのです…。




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