私の彼氏は浮気をしている
それは、一年生の夏のことである。翠は図書室にいた。最近新しく司書さんが購入してくれた本の中に、翠の好きな小説家の作品があったためだ。

貸し出し手続きを済ませ、窓際の椅子に座って本を読む。読書をすることが翠にとって至福のの時間だった。物語の世界に入り込んでいる間は、自分の容姿のことを忘れることができるからだ。

翠が読んでいるのは、早老症だと宣告された女性の恋の話だ。全てに絶望していた女性を出会った男性が支え、二人は惹かれ合っていく。だが病が二人の恋の足枷になっていく。切なくも美しいラブストーリーだ。

「こんなに綺麗な愛、きっと小説の中でしかないよね」

本を読み終え、頰を濡らしていく涙を拭いながら翠は呟く。病気を抱えている人を好きになることはきっと現実ではない、そう翠は本気で思っていた。

「……そうかな?俺は現実でも綺麗な愛はたくさんあると思うよ」

上から降ってきた声に翠は顔を上げる。そこには、同じクラスの森本聖司(もりもとせいじ)がいた。目が合うと、ニコリと彼は微笑む。慌てて翠は目を逸らした。
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