転移したら俺の息子が王太子殿下になり、メイドに三十点王子と言われました。
【1】俺はレイモンド・ブラックオパール!?
 ―レッドローズ王国―

「秋山さん、いや、レイモンドさん? まさかこれってまた《《あの》》異世界ですか……?」

「木谷さん、ここはゲームの世界なんです。私達はあの事故でこの世界に飛ばされ、再び現実世界に戻ったのに……。どうして……」

「ここがゲームの世界ですか!? す、すみません。私のせいです。私がまた事故をしたばかりに。でも異世界ではなくゲームの世界とは? 街並みも人もリアリティありますよ。奥さんや子供さんは大丈夫ですか? お怪我はありませんか? ていうか……黒髪ですが衣装は赤いドレスだし、あの時のメイサ妃殿下にそっくりですが。まさか美梨さんがメイサ妃殿下だったのですか?」

「それはないでしょう。私達は二人で現世に戻ったのですから」

「そうでしたね。美梨さんがメイサ妃殿下のはずはありません。あの時、一緒に現世に戻ったのは私達だけですから」

 彼女は何が起こったのかわからず、修と木谷の会話の意味も理解できていないようで、自分が何故ここにいるのかすらわからず、パニックになっている。

「レイモンド、これはなに? 私《わたくし》達は、まさか事故で死んだの? どうして赤いドレスを着てるのよ」

「やだなあ、私はレイモンドじゃないよ。美梨、君は美梨なんだよね? トーマス王子殿下ではなくその子は昂幸なんだよな?」

「あははっ、そりゃそうだ。タカ坊しか考えられないでしょう」

 木谷はいつものように豪快に笑ったが、微妙にその場の空気は凍りついている。

 男の子は車中で眠っていたため、何が起こったのかわからず目を擦っている。彼女は泣き出した赤ちゃんをあやしながら困惑していた。

「秋山さん、執事の衣装を着たあなたはどうやらレイモンドに戻ったようです。彼女はわかりませんが、あのドレス姿はメイサ妃殿下なのかもしれません。こ、これはマズいですよ。状況が把握できるまで身を隠さないと。とりあえずこの世界のタクシー仲間に連絡して迎えに来てもらいます。どこかに身を隠しましょう。それから冷静に冷静に考えるのです」

 『冷静に』と連呼する木谷だが、一番落ち着きがないのは木谷だった。
 
「そうですね。木谷さんよろしくお願いします」

「レイモンド、キダニさん、一体何のことですか? 私達は林檎狩りを楽しんだ帰りに事故に遭ったようですね。悪いのは追突したトラックドライバーですが、どうやら当て逃げされたようですね。すぐに警察に通報して指名手配しないといけません」

 彼女は強い口調で語っている。

「その口調は……。隣国のメイサ妃殿下にそっくりだ。一体どうなってるんだよ?」

「私はもうメイサ妃殿下ではありません。レイモンド、何を混乱しているのです? 事故で記憶が混濁しているのですか? 私達は結婚したではありませんか」

 (俺達が結婚!? 彼女は美梨ではなく、本当にメイサなのか!? だとしたら現世で美梨や子供達は無事なんだな。でも何故黒髪なんだ? メイサは美しい金髪だったはず。)

 混乱している修に木谷は木陰に隠れるように指示を出し、近くにあった公衆電話でタクシー会社に連絡をした。

 四人は木谷が電話中、木陰に身を隠した。木谷の車は修理すればなんとかなるかもしれないが、現世に戻れる保証はない。

 そもそも美梨ではなく彼女がメイサなら、レイモンドがメイサ妃殿下を浚って逃げる途中に事故をしてしまったのかもしれない。

 だとしたら、パープル王国の国王陛下やトム王太子殿下、レッドローズ王国の国王陛下までをも敵に回したことになる。

 (俺がまたレイモンドにすり替わり、メイサ妃殿下と結婚していたとは。でもここはただの異世界じゃない。ゲームの世界なんだ。誰かがレイモンドがメイサ妃殿下を浚う選択をしたなら、俺は今頃パープル王国から指名手配されている犯罪者ということになる。)

「嘘だろう。このままでは死罪だ……」

 レイモンド《修》はわけがわからないまま、三人を両手で抱きしめた。
< 2 / 106 >

この作品をシェア

pagetop