ひとりぼっちのさくらんぼ

お姉さんは、
「じゃあ、取って」
と、あたしに手を伸ばしてみせたけれど。



あたしは、
「ごめんね、もうさわれなくなったんだ」
と、正直に答えた。



「え?」

「昨日、お姉さんが寝室に行ってすぐにね、物に触れられなくなったの」



あたしは「見てて」と言って、スマートフォンを持ち上げようとして、やっぱり失敗した。



「なんで?昨日は確かにブランケットを掴んでたじゃない」

「わかんないよ。わかんないけど、今は無理なんだって」



お姉さんはあごに手を当てた。

何かを考えているみたいに。

電子レンジが鳴ったけれど、お姉さんは無視している。




しばらく沈黙の時間が流れて。

お姉さんが「あ、そうだった」と、電子レンジからマグカップを取り出した。



「ぬるくなってない?」
と、あたし。



お姉さんはそれには答えず、インスタントコーヒーの粉をマグカップの中に投入する。

それから。

ものすごく自然に、お姉さんはこう言った。



「ルール、かも」




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