契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 その翌日、会社の上司に結婚と妊娠を伝えた。
 上司は、すでに社内に蔓延していたわたしと東條さんの噂を知らなかったのか、ものすごく驚いている。

「浅野さん、いやもう東條さんなのか。これから仕事は続けるのかね?」
「ご迷惑をおかけするかもしれませんが、できれば働きたいと思っています」

 少し薄くなってきた頭をかいて困惑したように聞く上司に、わたしもためらいながら答えた。
 たしかに、なにしろ東條グループのトップとの結婚だ。仕事は辞めると思われるだろうとわかっていた。
 今のところまだ、伊織さんに仕事を続けるかどうかの相談はしていない。
 会社を辞めるということは、自分の手で安定した収入を得る手段がなくなるということだ。わたしの場合、この会社や事務仕事に愛着があるわけではない。ただなんとなく将来が不安で、伊織さんと仕事の話をするのを避けていた。

 ――後輩に恋人を略奪された浅野結菜が、セレブと結婚した。しかも、おめでたらしい。

 センセーショナルな噂話は、瞬く間に社内に広がった。
 同僚や知り合いの社員から祝福の声をかけられたりもしたけれど、基本的にはちょっと遠巻きにされているかんじだ。わたしもあまり騒がれたくないので、会社ではひたすら大人しく目立たないように過ごしていた。
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