契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 実は数日前に、愛菜が『ママ』と口にした。娘の成長を喜びながらも、俺は悔しくてならなかった。早くはっきり『パパ』と呼ばれたい。
 新しいりんごをむいて、愛菜が求めたらいつでも渡せるように待機する。
 ここ信州は、りんごの本場だ。
 だが、夏はりんごの旬ではない。愛菜の好物だと知った結菜の家族が、農家のりんご貯蔵専用の冷蔵庫で保管されていたものを取り寄せてくれたのだ。
 結菜の家族――いや、今は俺の家族でもあるのか。
 その事実が、なんとなくこそばゆく感じる。母が亡くなってから、ずっと憧れてきたにぎやかな家庭。義理とはいえ、自分に家族と呼べる存在ができたということがうれしい。
 だが、少し照れくさいのもたしかだ。

「うまいりんごだな、愛菜」

 娘に食べさせながら、俺も自分用にむいたりんごをひと口かじる。甘酸っぱい果汁が口の中に広がった。
 結菜にプロポーズしたときは、まさかこんな幸せを手に入れられるとは思ってもいなかった。
 俺は結菜に好かれているなどとは想像もせず、なかばさらうように彼女を新居に連れてきた。
 強引にことを進めたのは、断られるのが怖かったからだ。
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