契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 わたしが内心で改めて冷や汗をかいていたら、東條さんがまた笑った。

「まずは『あきつ島』の旅立ちに乾杯しようか」

 ソファーの前の小テーブルに置いていたグラスをふたつ取り上げ、片方をわたしに差し出してくる。

「あ、ありがとうございます」
「乾杯」

 少し気の抜けてしまったスパークリングワインを飲み干した。のどが渇いていたので、ビールのようにぐいぐい飲んでしまう。

「浅野さん、酒に強そうに見えないけど、いける口なんだな」
「よく言われますけど、親戚が蔵元をやっているので、わりと飲み慣れてます」

 どうやらわたしは、やや童顔のせいか、おとなしい性格に見えるらしい。
 内実はそそっかしいところもあるし、祖父母、両親、弟ふたりという大家族の中で育ったせいか、だいぶ大雑把でもある。お酒にも強いほうだ。

「じゃあ、機会があったら、また飲もう」
 東條さんも自分の赤ワインを飲み干して、空のグラスを進行方向の窓にかざした。
「そうですね、万が一機会があったら」

 わたしも空っぽのフルートグラスを青空に掲げた。
 そのときは、その機会が数時間後に巡ってくるなんて思いもしなかったのだった。
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