契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
「あの、場所を変えてお話したいのですが」
「車を用意している。あまりかしこまったところもどうかと思って、よく行くフレンチレストランを予約したんだが、そこでいいか?」
「え、あ、はい、フレンチ?」

 カフェにでも入って話すつもりだったので、ちょっとびっくりした。
 しかも伊織さんがわたしの肩を抱いて、車のほうに連れていこうとするので、さらに驚く。

「気楽にワインが飲みたいときに行くレストランなんだ」

 周囲の目も気にせず、甘い笑顔を見せる伊織さん。彼の意図がわからず戸惑った。
 人前でこんなにスキンシップをしてしまって大丈夫なのかしら。でも、もしかしたら海外流の社交術なのかも? わたしは英文学部の出身だけど、ごく普通の女子大生で、短期の旅行以外に海外経験はない。伊織さんなら外国へ留学していてもおかしくないし。
 東條ホールディングスの本社の前には、大型の黒いセダンが横づけにされていた。国内自動車メーカーの最高級車の運転席には、すでに人が乗っている。

「あれは、運転手さん?」
「社長車だからな」
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