もう一度、重なる手

「そんな泣いて、午後からの仕事大丈夫かな」

 ぽろぽろと涙を落とす私の頬をアツくんが両手で包むようにして拭ってくれる。

 アツくんの苦笑いがぼやけて滲む。

 アツくんが何度手のひらで拭っても、こぼれ落ちる涙が止まらない。

 アツくんの手の温もりを頬に感じながら、私は気付いてしまった。

 言葉にはできないけれど、自分が一番大切なものが何で、本当は誰のそばにいたいのか。

 そのことを私よりも早く見破っていた翔吾くんは、なかなか勘が鋭いのかもしれない。

 私は、アツくんが好きなんだ……。

 恋愛感情で。

 たぶん、ずっと昔から――。


< 104 / 212 >

この作品をシェア

pagetop