もう一度、重なる手
諦めたのかな、と思ってほっとしていると、数十秒後にまた母から電話がかかってくる。それも無視していたら、着信が切れた数十秒後に三度目の電話がかかってきた。
どうやら母は、私が電話に出るまでしつこく掛けてくるつもりらしい。
途切れてはまた鳴り始める母からの着信に、最終的に私が根負けした。
七度目の着信でようやく電話に出ると、通話口で母が啜り泣いていた。
「お母さん……? どうしたの?」
驚いたけれど、母が泣いている理由にはなんとなく予想がついた。
「彼が、別れたいって出て行ったの……。仕事が忙しかったのも出張に行ってたのも、全部ウソ。あの人、私にウソをついて、他の女のところに入り浸ってたみたい……」
涙混じりに語る母の話を聞きながら、やっぱり……と思った。
母が事故に遭って家事の手伝いに行っていたときから、おかしいと思っていたのだ。
山本さんは母が事故に遭った日も仕事を理由に遅くまで帰ってこなかったし、ケガをした母の代わりに家のことを手伝っている様子もなかった。
普通は同棲している恋人が事故に遭ってケガをしたら、少しは相手を気遣うものなのに。私が家事を手伝いに行っているあいだ、母は山本さんから放置されているように見えた。