もう一度、重なる手

「私、アツくんにだったら何されてもいいよ」

 顔をそらしてしまったアツくんの服の袖をつかむと、彼が私を横目に見てため息を吐く。

「俺相手だからって、簡単にそんなこと言っちゃだめだよ」

 アツくんは複雑そうな表情を浮かべて笑うと、必死な目で見上げる私を揶揄うようにきゅっと鼻をつまんできた。

「簡単に言ってるわけじゃないよ。私、アツくんならほんとうに何されてもいい」

 好きだから。

 真っ直ぐにじっと見つめる私を、アツくんが困った顔で見つめ返してくる。

「しばらく会わないあいだに、フミにそんな誘惑ができるようになってるとは思わなかった」

「幻滅した?」

 翔吾くんとの関係が微妙なのに、軽いと思われたかもしれない。

 つい気持ちだけで先走ってしまった自分に嫌悪してうなだれる。

「いや……」

 そんな私の耳に、アツくんのちょっと困ったようなため息が聞こえてきて。さらに落ち込む。

「フミは昔も今も可愛いよ」

 うつむく私の左頬にそっと触れて顔をあげさせたアツくんが、眩しそうに少し目を細める。
< 141 / 212 >

この作品をシェア

pagetop