もう一度、重なる手

「ここのビルのエレベーター、低層階行きと高層階行きに分かれてるんです。こっち側の三つのエレベーターは全て十五階以上の高層階にしか止まらなくて、あっち側の三つエレベーターが十五階よりも下の階に止まります」

 私がお婆さんが指差しているのとは反対側を指差して、ゆっくりと説明すると、エレベーターを差していた手を口元にもってきたお婆さんが「あら、そうだったの」とつぶやいた。

「年がいくと、いろいろと勝手がわからなくなってダメねえ」

「慣れないとややこしいですよね。私も、新人で入ったばかりの頃は迷いました。もしよかったら、五階のクリニックまでご一緒しますよ」

「あら、いいの?」

「はい、時間があるので」

「ありがとう。それは助かるわ」

 私の提案に、お婆さんは嬉しそうにニコニコと笑ってくれた。

 お婆さんと一緒にエレベーターに乗り込むと、五階の医療モールにある整形外科クリニックの前まで送っていく。

「ありがとう。お嬢さんが親切にしてくれて助かったわ。お仕事頑張ってね」

「ありがとうございます」

 お婆さんの笑顔に少し幸せを分けてもらった私は、ほっこりとした温かい気持ちでひとりでエレベーターホールへと引き返した。

 狙って親切にしたわけではないけれど、「ありがとう」と言ってもらえることは無条件に嬉しい。

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