もう一度、重なる手

 休憩スペースで、翔吾くんからのラインを確認したのが十分ほど前。営業回りでうちの会社に来た翔吾くんは、私がデスクにいないことを確かめたうえでラインを送ってきたのだろうか。

 今日はほんとうに、うちの会社に仕事の用事があってきたの……? 

 それとも、私がアツくんと会っていないか抜き打ちで確認するため……?

 疑いたくはないけれど、笑顔の翔吾くんが何を考えているのかさっぱりわからない。

 私は、家だけではなく職場でも翔吾くんに監視されているってこと……?

 怖い。最近の翔吾くんは、いくらなんでもやりすぎだ。

 気付けばカバンを持つ手が震えていて。それを抑えるために、私はお腹のあたりで両手をぎゅっと握り合わせた。

「おかえり。史ちゃん。小田くんも史ちゃんも会社ではわざとらしいくらい他人行儀だよね」

 挨拶回りにやってきた翔吾くんの対応をしていた由紀恵さんが、ふふっとからかうように笑う。

「仕事とプライベートとは別なので」

 翔吾くんは由紀恵さんに笑顔を返していたけれど、私は少しも笑えなかった。

「仕事とプライベートとは別」ともっともらしい顔で話すその裏で、翔吾くんは私の仕事とプライベートの両方を監視しているのだから。
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