この胸が痛むのは
無理に笑わなくてもいい。
無理にあきらめなくていい。
いつか、忘れられるから。

祖母は私が眠る前に、そう言ってくれました。


翌日、姉が来て、殿下からのお手紙を渡されました。

その手紙には、
『今回の夜会のパートナーをクラリス・スローン嬢に頼んだのは、特別な意味はないし、君がデビュタントしていたら、私は君に頼みたかった』と、書かれていて。

何度読み返しても、そう書かれていたので、私は姉に聞いてみました。


「お姉様をパートナーにしたのは特別な意味はない、と書かれていますが?」

「その通りよ。
 殿下の為に開かれた夜会だから、パートナーが必要で、それでそうなっただけよ。
 仕方なく踊ったけれど、殿下はお前がアグネスだったら良かったのに、って言いたそうだったわ」

「……」

殿下は他にも
『また、手作りのクッキーを食べたい』
『アールが君とバックスに会いたいと泣いている』と、お手紙に書いてくれていました。

それから……
『すごく君に会いたい』は、2回も。

私の隣で、私達のやり取りや様子をご覧になっていた祖母が、私の手を握ってこう言ってくれたのです。


「そろそろ帰りなさい。
 無理をしそうになったら、いつでも遊びにいらっしゃいな」
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