この胸が痛むのは
「はい、それとね、君と君と君もクラスまで行かなくても、どこの家門の子かわかるなぁ。
 君達の兄や姉は、僕の教え子だからね」

口では生徒の顔は覚えない、と仰っていたのに。
先生の頭の中では、この場に居るご令嬢方の
ご兄弟をちゃんと把握されているようでした。


「特に第1王女殿下、貴女のご行状は高等部でも有名です。
 財務大臣のご令嬢にこのような真似は、両陛下も庇い切れると、お考えですか?」

「ふ、不敬です!」


目の前で指差してくる先生の手を払いのけて、
王女殿下は大声を上げました。
そんな声を出したら、他の方も集まってくるのに。


「不敬ですか?
 僕はこの国の人間ではないので、貴女なんか
怖くないですよ」

「名前を!名前を名乗りなさい!」

本当に王女殿下に怒られても、この先生は平気なんだと思いました。
わざとらしく、ゆっくりと淑女に対する紳士の礼を先生はされました。


「申し遅れました。
 高等部で伝承民俗学の教鞭を取っております。
 イシュトヴァーン・ストロノーヴァと申します」


赤い瞳が悪戯っ子のようにキラキラ輝いていました。
それがストロノーヴァ先生と私の出会いでした。

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