この胸が痛むのは
辺境伯夫人は今の時点で他の女性には目を向けない息子の、好みに合わせた女性を5年の歳月をかけてひとり作るつもりだ。 
……そうか、これが幼い頃から囲い込むという事なのか。
だから、スローン侯爵は難しい顔をしていたのだ。


『早めに囲い込みましょう』

アライアは、アグネスを俺に合わせた女性に。
ひとりの少女を、アライアが思う俺に相応しい女性に、作り替える気だったんだ。


「スローン侯爵は断っただろ?」

侯爵は囲い込みなんて嫌うはずだ、受けるはずがない。


「んー……辺境伯夫人が居られた間は我慢していたのですが、帰られたら母がすごい勢いで、断るように父に泣きついて、大変で。
 まあ、それがわかっていたから、父も私に同席するようにと仰せになったんですけれど」 
 
侯爵夫人が? 
アグネスとの仲は、なかなか修復出来ていない、と聞いている。


「母は愚かだ、と申しましたでしょ?
 母にとって一番愛しい子供はアグネスなんです。
 全然伝わっていませんが」
< 170 / 722 >

この作品をシェア

pagetop