この胸が痛むのは
やはり侯爵夫人は姉を妹の代わりにしようとしてたんだ。


「それもやはり愚かとしか言えなくて。
 王家に妹を取られたくなかったんでしょう。
 臣籍降下と言えども、国王陛下と仲のよろしいアシュフォード殿下の扱いは依然として王族のままになるでしょう。
 その殿下に望まれたら、こちらから断ることは出来ません。
 王族同等の公爵夫人になると、母からは妹や子供になかなか会えなくなります。
 母は嫁に出しても尚、妹と離れたくなかったのです」

「そんな先の事まで?」


俺は娶ったからと言って、実家との繋がりを断つ様な真似はしない。
だが侯爵夫人にとっては、俺は愛娘を奪っていく男に見えたのか。


「でもそれじゃ、お母上は君なら……」

言わなくてもいいことを口にしようとしたレイを黙らせようと、俺は手を上げたが。


「私は繊細なアグネスとは違って、図太い女ですから。
 母には、王城へ上がっても充分やっていける、と思われていたのです」

淡々と語るクラリスに、俺は先日ストロノーヴァ先生(もう呼び捨てはしない) から注意された話を思い出した。

 母親の先回りしていく歪な愛情から、自分の気持ちを出せなくなったアグネスと。
母親の思い込みから、弱さを見せられないクラリスと。


クラリスをちゃんと見て助けてやってくれ、と先生に頼みたかった。


先生の言う通り、俺はアグネスを守るから。
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