この胸が痛むのは
いや、頼まれるまま偽りの愛の言葉を吐いた。
あれ以上に変な真似があるか?


どうして、俺はあんな事をしたんだ。
君に言いたくて、言えなくて、まだ口に出来なかったあの言葉を、他の女に言った俺を、知っているのか?


「ね、早く早く! こっち!」

ぐいぐいと、アグネスは俺の手を引っ張る。
侯爵夫人の方を振り返ると、彼女の向こうに封筒を手にして、こちらを見送るクラリスが見えた。


 ◇◇◇


アグネスに手を引かれるまま。
さっきまで姉と一緒に座っていたベンチに俺は座
らされた。
アグネスは俺の前に立ち、見下ろしている。

その青い瞳を真っ直ぐに見れなくて、俺は視線を外した。
何かがおかしくて、怖くて………
……今ここで、俺は別れを言われて捨てられる?
アグネスを失うかもしれない恐怖に、指先が震える。


「……リーエに頼んでいたものが届いたんです」

アグネスは初等部の制服のポケットから何かを取り出す。

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