この胸が痛むのは
私を嗤っていた姉の顔から、余裕の微笑みが消えました。
ですから、私が代わりに笑ってみせたのです。

「……貴女に話せていない事があるの。
 殿下には、話さないでとお願いしていたから、あの御方は黙っていて……」

落ち着きなく、少し躊躇いながら。
そう言いかけた姉の話が遮られたのは、メイド長が
『奥様がお待ちです』と、私達ふたりを早くと呼びに来たからでした。
それで姉に食後に話を聞きたい、と言いました。



私は泣いた。
すごく泣いた。
息が出来ないくらい、胸が痛かった。 
だからお姉様、貴女も。
食事の間に、私にどう話すか、どう誤魔化すか。
悩んで、胸を痛めればいい。


『裏切りの味は苦いのかしら、それとも甘いのかしら』

例の小説のヒロインのモノローグを思い出しました。
彼女は愛する夫と信頼する親友との浮気を疑い、徐々に心を壊していくのです。
小説は最終的に浮気の事実を描いていません。
読者の想像に任せる手法です。

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