この胸が痛むのは
先程、この部屋でこのドレスを見た時には。
広げたりせずに、裾の辺りを引っ張って。
確かにドレスであると、それから色とカードを確認しただけでしたが、こうして広げて見ると……
腹が立つ程美しく。
それと同時に襲われる圧倒的な敗北感。

お揃いの組み紐がなんだと言うのでしょう?
このドレスと比べると、なんてちっぽけな!


「これは間違って届いただけなの。
 殿下はこれを返して欲しいと、先程いらしたの」

「間違って?」

「そうよ、殿下は貴女だけが好きなのよ。
 誤解したガードナー侯爵令嬢が間違えて、これを届けるように手配したの」

「……」

「明日はお母様と、おばあ様に呼ばれているから、明後日にでもこれをアローズヘ返しに行くわ」


このドレスは間違いだと。
だから、返すのだと、姉は言うけれど。
殿下からドレスを贈られる事については否定していない気がしていました。
ただ、このドレスだから返すのだと言ってる様な。
となると、やはり殿下は姉の誕生日プレゼントにドレスを……贈るつもりだった?


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