この胸が痛むのは
彼女が悪い訳ではないのです。
今でこそ、使用人達は私を殿下の想いびとだと扱いますが、最初はお相手が姉でなかった事に驚いていたのを知っていました。

でも、また。
遠くない未来に。
殿下が本当に愛していたのは姉だったと。
やはり姉だったと、彼等は知ることになる。
レニー貴女もね、また殿下と姉のロマンスに夢中になるのよ。
そんな事を考えて、また私の涙腺が緩んで。


「痛いの、傷口が」

私の涙を見て心配そうなレニーに、私は訴えました。


「指先は痛いんですよ、他のところを切るよりも」

そうね身体ではね、指先を切ると疼くのね。
でも、心はもっと痛くて、ずっとずっと疼いてるの。
それはもちろん、レニーには訴えません。


今朝は早くから殿下からのご使者がいらして、手紙を届けられました。
『明日、話したい事があるので、会えないか』という内容でしたので、下校してからならという返信を書き、母からの
『夕食をご一緒に』という申し出を付け加えました。



朝食の席で、今日はクラリスを連れて、ダウンヴィルの母のところへ参ります、と母が父に言っていました。
何故母と姉が祖母のところへ呼ばれたのか、私は知っていました。

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