この胸が痛むのは
王太子の執務室に入ると、ピリピリした兄がそこに居た。


「お前に言われて影を引き上げさせたのは、失敗だったな?」

この夏以降、アグネスや侯爵家に王家の影を付けることをやめて貰っていたのだ。


「スローンでは、暗くなる前から動いていたようだが、こちらに侯爵が報告してきたのは、発見されてからだ。
 理由はわかるが、王立騎士団を使いたくなかったようだ。
 侯爵が下城したのが、第二報を受けてからだと思う。
 馬車ではなく、馬で城を出たが、俺達は会談中だったから連絡は受けてない。
 普段と違う行動をする奴がいたら、直ぐに報告を、もっと徹底しないといけないな?
 現場には侯爵と長男が向かっているようだから、お前は表立ってはその息子の方に付いてやれ」

「……侯爵家ではなく、現場にですか?」

「侯爵家に行って、泣いてるアグネス嬢の肩を抱いて、手を握って慰めるのか。
 それをしたいのか?」

「……」

「現場をちゃんと見て来い。
 侯爵の気持ちを尊重していると知らせたいから、今夜は騎士団は動かさない。
 お前が個人として手伝うのだと思わせろ。
 夜だし、雨のせいで現場は荒れてるだろうが、気が付いたことがあれば報告をして欲しい。
 事故か、事件か。
 事件と判断したら、そこからは騎士団と俺が動く。
 もし事件で犯人がいるのなら、そいつを罰するのが、亡くなったふたりに世話になったお前が出来る最後のお礼だ」


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