この胸が痛むのは
おとなしく言うことを聞くはずの私から責められて、母は青ざめ、一方の姉は普通に明るい声で提案をして来たのです。


「あら、そうだったの? 私は知らなかったの。
 ごめんなさいね、あれ貴女に渡すから。
 それで、替えのインクは私から、にしてもいい?」

「もういいです。
 私は違う物を渡します」  


お姉様が選んだ包装紙とリボンで飾られたプレゼントを、私に『渡すから』なんて言われて、受け取りたくありませんでした。
 


お母様とお姉様が選んだペンは、もう私が渡したかったペンじゃないの。
私が自分で、選びたかったの。
殿下に贈るペンも包装紙もリボンも。
私が選びたかった。
……そんな私の想いは、父にも届かなかったようです。


「クラリスも謝っているから許してあげなさい。
 お母様も良かれと思って先回りしただけだから、アグネスも意地を張ってはいけない」


兄が苦い表情で父を見ていました。
幼い私には気付けていなかったけれど、今まで何度かこうしたやり取りはあったのかもしれません。
その度に少しずつ兄は両親に対する失望を重ねていたのかも……

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