この胸が痛むのは
「赤い紅だけは落として行けよ」

仕方なくハンカチを手渡せば、バージニアは悔しそうな顔をして口元を拭った。


案の定、俺達の入場は最後の方で参列者の視線集中だ。
これが嫌で、早めに席に着きたかった。
緑をあしらった白百合と白薔薇の、上品で優美な祭壇。
侯爵夫人は百合がお好きで、クラリスは薔薇がお気に入りだった、とプレストンに聞いた。

『殿下に花をいただいたと嬉しそうでした』と、侯爵に聞かされたが、俺が夫人にとアグネスに預けた花束には百合はなかったと思う。
小ぶりな花が好きな彼女に贈るついでに、持ってきたブーケだった。
一度だけでも俺の手から、お好きな花を贈ればよかった。
聞いたら、夫人は百合だと教えてくれただろうか。


教会の入り口から祭壇に向かって前方右側が家族席。
対面の左側に王族席を設えた様で、そちらに案内されて席に座る。
白を基調にした、所々水色や薄紫の花をあしらった供花が多く贈られているようだが、一番目立つ場所に飾られた一際大きなものは、王家からの花か。
花祭壇に合わせたように、こちらも白百合と白薔薇だ。
さすがそつのない王太子は、ふたりの好みと祭壇の花を調べていたか。


隣の席に座るバージニアが俺の耳元で囁く。


「素敵な祭壇ね。
 もし、私が先に亡くなったら、お花はカサブランカにしてくださる?」 

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