この胸が痛むのは
「本格的に調査が始まるのは葬儀後だと、何人かに漏らして貰ったのは正解だったな」


葬儀から戻り、その報告で執務室に顔を出した俺に王太子が言った。
漏らして貰った? 
そうするように、侯爵に命じたのだろうに。
これは俺にも伝えてくれなかったから、想像するしかないが。

昨日の親しい家門だけを招いての、お別れの会。
この中で、少し口の軽い何人かに
『第3王子が明日の葬儀が終われば、事故の調査をしてくださる』
そう漏らしてくれと、あの書状で命じていたのだろう。

侯爵本人が、家族と共に居る俺に顔を向けながらそう言ったとしたら。
聞かされた相手はそれを真実だと思い、侯爵家の様子を尋ねてきた者にそれを話す。


「俺を陽動に使いましたね?」

「お陰で、こっちは動きやすかった、助かった」 

いけしゃあしゃあ、というのはこの事だ。
俺は王太子と対峙して、実感した。


完全に暗くなる前に、少人数で王城を出た俺を何人もの貴族が見ていた。
その日は午後から2度、侯爵家から当主の財務大臣の元に早馬が到着していた。
『侯爵家で何かあった』それは皆が感じていて。
その後、強い雨が降っているのにも関わらず、侯爵は馬車ではなく馬で下城した。
以降の全ての予定をキャンセルするように命じてだ。

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