この胸が痛むのは
正面の席には少し硬い表情の殿下が。
そして、その殿下にバージニア王女殿下が何か囁いていらして。
殿下が頷かれると、王女殿下がこちらをご覧になって。
笑っていらっしゃった様な気が致しました。
王女殿下は確かに私に向かって、笑っていらしたのです。
殿下が難しいお顔をされているのに、何がおかしいのでしょうか。

何だか怖くなって下を向いていると、兄が
『殿下もお気の毒に、おかしい女だな』と小声で言って。
バージニア王女殿下の華やかな黒の装いの事を
言っていたようです。

目の前で見せられたおふたりのご様子に、内心
面白くなかった私でした。
本来は今はそんなことより、ちゃんと母と姉を
見送らなければいけないのに。
もう殿下の事を気にするのはやめようと、不謹慎な自分を戒めて見ないようにしました。


司教様の最初の祈りが厳かに聖堂内に広がっていきます。
これが終わると、聖歌隊の染み入るような歌声のなか、棺に花を捧げます。
私は兄の後ろに従い、白百合を手にしました。
私の次の先代が、私より早く手を伸ばして薔薇を持ったからです。
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