この胸が痛むのは
兄が私の目を見ながら、笑って言いきります。


「お前にいつも持ってくる花だとかリボンも、
好みを伝えて買いに行かせてるんだろうな。
 それは王族だから当たり前だから、怒るなよ?
 俺が言いたいのは、お前がずっとしていた
組み紐……」

兄の言葉に思わず、何も無い左手首を握りました。 


「市で買って貰ったって聞いたけど、確かなのは。
 あれが唯一の、殿下がご自身で選んで、お前に贈ったものだ、って事だよ。
 だから、自信を持て」


何を、どうやって、自信を持てと?
あれは3年も前の事です。
その時は確かに『好きだ』と言われたけれど。
クラリスには『愛してる』と言ったの。

プレストンは殿下がクラリスに、言った言葉を
知らない。
ドレスは間違っていたのかも知れないけれど、
カードの文言は嘘じゃない。



その後、父は王家に財務大臣の辞職願いを提出
致しましたが、王太子殿下により慰留されました。
兄の予想の通り、ドレスを返却しなかった事に
ついては不問に付すと決められたようでした。

父と兄が何を思っていたのか、知らされぬまま。
私は兄から返されたあのドレスを、姉のクローゼットに戻しました。 
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