この胸が痛むのは
殿下はずっと黙ってしまわれました。
そして。


「俺の勝手なあれだったけれど、今日は今まで言えなかったことを話して、もしも君が許してくれるなら、婚約を申し込みたかった」


私と婚約を、と?
殿下の言い出された事に理解が追いつかなくて。


「お父上やプレストンからドレスの話は聞いていない?
 あれは俺の、俺の馬鹿な俺のせいで、君のお母上と……クラリスが。
 亡くなってしまったのは、俺の……」


やめて、やめて!
ふたりが死んだ原因? そんなことは聞かなくてもわかってる!


急に呼吸が出来なくなりました。
心臓がきゅっとして、だらだら汗が出てきました。
手足が強張って寒くなってきて……


「俺は間違いばかりしてて……
 アグネス? アグネス!
 ちゃんと息をして!」


殿下の声が遠くから聞こえました。
抱き締めてくださって、背中を擦りながら何度も私の名前を呼んでくれていたのは聞こえていました。
段々と指先や口の辺りが痺れるよう……



私を姉の代わりにしようとなさっている残酷な
殿下から逃げたくなって。

私は弱い自分を守る為、殿下から離れることを
決めました。

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