この胸が痛むのは

第64話 アシュフォードside

赤い目をした男はトルラキア貴族高等学院の生徒で、中等部の頃からアグネスと仲良くしていると言った。


「オルツォ・イシュトヴァーン・ノイエと申します」

王家に準ずる家門の嫡男か……
その名と、その赤い瞳の色からも察することは
出来た。
確か、ストロノーヴァ先生の姉が嫁に行ったのが、オルツォ侯爵家だ。
あの家は名門ではあるが、嫡男にイシュトヴァーンを名付けられる名誉を受けていたか?


「去年、デビューしたおりに、イシュトヴァーンを名乗るようにと、ストロノーヴァの当主が申しまして。
 それ以前はオルツォ・マルーク・ノイエでした」

ストロノーヴァ先生の祖父、当主の公爵が望めばこの国では大抵の事は叶うと言われている。
その公爵が、外曾孫にそれと改名させたのは。


「私は次男なのですが、兄の目はオルツォの黒。
 母の目の色を継いだのは私でした。
 縁続きの男子で赤い目は私だけなので、このままミハン叔父が結婚もせず子をなさないのであれば、叔父の養子になることが決定したのです」

随分と踏み込んだ話を、初対面の俺に聞かせるのは何故だ?
その理由は……読めるが、はっきりと聞きたくないな。


「殿下はネネの兄のような御方だと存じています」

兄? 兄になったつもりはないぞ!
それにアグネスをネネだと!
16のガキが俺に、牽制してるのか?


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