この胸が痛むのは
本当は外国の王弟殿下に対してあんな態度をしたくないのに。
歳上の方に対して生意気な男の演技をしてくださった。


私があの夜泣いてしまったから。
殿下を想って泣いてしまったから。


 ◇◇◇


トルラキア王城でのオルツォ様のデビュタントの夜、4年振りにストロノーヴァ先生にお会いしました。
当代の公爵閣下は出席しておられなくて、オルツォ様のお祖父様である次期公爵閣下と、先生がいらしていたのです。

初めはどなたなのか、気付きませんでした。
オルツォ様に連れられて『叔父上』とお声をかけたら、振り返られたので、その男性がストロノーヴァ先生だとわかったのです。


「アグネス・スローン嬢、綺麗になられたね!
 ノイエから貴女の名前を聞いて、会いたくて久々に社交の場に出たよ」

何だか、話されているご様子も、言葉も、かつての先生ではなくて。
少し、淋しく思いましたが、公式の場所なら仕方がない事。


「ご無沙汰しております。
 先生も……素敵になられて」

「これが未だに苦しくてね」

先生はそう仰りながら、首元のブラックタイを
緩められました。
今夜はデビュタントの男性以外はブラックタイと、決められていました。
締められていたタイには一粒のダイヤモンドが
上品に煌めいていました。
バロウズでのいつも緩んだ感じの面影はどこにもありません。


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