この胸が痛むのは
私にとってはそれも贅沢だったのですが、よくよく考えればパートナーを勤めてくださるのが王弟殿下なのですから、外見だけでも相応しく装わなくてはならないと思い直したのでした。

ドレスの型番と細かく追加するデザイン、生地、縫い付ける繊細なレースや煌めく宝石等の装飾を決定し、そしてサイズの測定。


『どこかに金と紫を入れて欲しい』と、殿下が命じられたのはそれだけで、後は私の好きにさせてくださいました。
私でさえ疲れるこの作業には2日間かかり、それにずっと殿下は付き添ってくださっていて。


「今回はリヨンへ行かれていた慰労の休暇でしたのに、これでは全然お休みになれていないのでは?」

「そんなことないよ。
 予定ではリヨンに君を連れて行くつもりだったし、君と居られるだけで、疲れは癒されるよ」

サロンでそう仰せになるお優しい殿下に、打合せをしていた店員さんやお針子さん達はうっとりとしていたようですが……

ここに来るまでも大変でした。
それは私がドレスの代金は殿下にお支払をしていただく必要はないとの父からの伝言を、初日の帰りの馬車でお伝えしたからでした。


「どうして?
 君のデビュタントは全部俺が用意すると、前々から決めていたのに」

「父もそう決めていたようです。
 婚約者でもない殿下にそこまで甘えられません」
 
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