この胸が痛むのは
その様な訳で、今私の側でエスコートをしてくれているのは留学先の帝国から一時帰国した兄の
プレストンでした。


侯爵家の順番はかなり後の方なので、兄とは話す時間がありました。
私は王家の馬車で殿下と早めに来ていて、兄は
スローン侯爵家の馬車で父と登城したので、夜会会場で本日初めて顔を合わせました。


「うーん、素晴らしく化けたなぁ。
 美しいね、怖いよ。
 それで、これが例のドレスだな」

「もう、化けたって失礼です!
 例の、ドレスって何ですか?」

誉められたのか何だか、よくわからない兄の感想は、私の緊張を解してくれました。


「このドレスの支払いを巡って、殿下と父上は
結構やりあっていたらしいぞ」

「巡って、って……お父様がお支払をするからと殿下にはお断り致しましたよ?」

私がそう言うと、兄は可笑しそうに笑い、肩を震わせました。
父は仕事関係の方々と遠くの方で談笑していて、私達兄妹の会話には気付いていません。


「お前の前では大人しく引き下がったかも知れないけれど。
 殿下にも、父上にも、意地があるからなぁ」

「お二人は喧嘩をしたのですか?」

「俺も実際は見ていないから、はっきりとは断言出来ないが、ゲイルが言うには……」

ゲイルはうちの家令です。
兄は彼から留守の間の侯爵家の情報を手に入れているようでした。

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