この胸が痛むのは

第82話

バーモント辺境伯家は西の国境を守る、王家に
匹敵する名家。
その軍事力は王家を凌ぐとも言われている事は、デビュタントをしたばかりの私でも存じておりました。


辺境伯夫人はとても楽しそうに見えて。
酔っていらっしゃるのがわかりました。
それで少し不安にも思ったのですが、私は……
どなたでもいいから、お話をしたかったのです。

この夜会で誰でもいいから女性とお話をしたかった。


「想像していたより……ケイトリンに似てこられて」


ケイトリンとは、母の名前です。
辺境伯夫人は母とは親しくされていたのでしょうか?
その様な話は母からも父からも、祖母からも聞いていませんでした。

父やクラリスに似ていると、何度か言われたことはあっても、美しかった母に似ていると言われたのは初めてでした。
この御方は酔っていらっしゃるけれど、楽しそうにされていて母の知り合いならば怖がらなくても大丈夫。


ですが、思っていたより近付いてこられた夫人に手を伸ばされて。
頬に掌を添われて驚きました。

身体に触れるなど、何より顔に触れるなど。
そんな親しい仲ではないのに。


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