この胸が痛むのは
この年の11月でアグネスが卒業するという夏の終わりに。
前ダウンヴィル伯爵夫人、アグネスのおばあ様が亡くなった。


ベアトリス・ダウンヴィル前伯爵夫人は、時に
のんびりと、時にからかうように。
『あらあら』と、笑いながら仰っしゃるひとだった。
思わぬお別れに、アグネスを想い、心が焦った。


遺言で葬儀は前伯爵夫人が愛したトルラキアで
行われる事になり、たまたま外遊から帰国して
いた俺は、スローン侯爵やダウンヴィル伯爵と
前後して、入国出来た。


学生だったアグネスを支えて動いてくださったのはイェニィ・アーグネシュ伯爵夫人と、この国で夫人の最初の友となったホテルの女主人ナルストワ・リンゼイ夫人だった。

トルラキアでは貴族よりも平民を愛し、彼等から愛された女性だった。
異国の前伯爵夫人の葬儀には、たくさんの人間がお別れにやってきた。


そして俺は……
葬儀で久し振りに会ったアンナリーエ夫人から、アグネスが調べようとしていた『死人還り』の話を。
一緒に居た先生と共に聞かされる事になった。
< 548 / 722 >

この作品をシェア

pagetop