この胸が痛むのは
俺より、自分の息子レイの再婚を気にすればいいのに。
俺にはアグネスという唯一の女性が居るが、レイは恋の狩人みたいになっていたからだ。


「他国の王家からもお申し出があると、もっぱらの噂でございます」

「全部きちんとお断りはしている。
 とにかく、結婚はアグネスとしか、しない。
 この話はここまでだ」


他国の王女や皇女、公女との縁組打診は最初の
帝国の子狐の時は、口の軽い大使館の首席事務官を脅すことでそれ程広がらなかったのに。
ここ2年の間に申し込まれた分には誰がそれを
喋ったのか、把握出来ない状態に陥っていた。

独身の25歳のバロウズの王弟は、10代初婚の姫からも、30代再婚の元姫からも、丁度よいお相手に見えるらしい。


アライアからせっつかれたからでもないが、
スローン侯爵にはアグネスとの正式な婚約を申し込んでいる。
だが、まだ返事は保留されている。
想定内だから焦りはない。
きっと……秋まで返事は来ない。
クラリスの誕生日が過ぎるまでは。


< 568 / 722 >

この作品をシェア

pagetop