この胸が痛むのは
翌日はストロノーヴァ公爵邸へ。
先ずは当代の公爵閣下の私室に挨拶に伺う。
以前は迎えに出てくださっていた時もあったが、最近は寝込まれている事も増えていると聞いていたので、出迎えは不要、こちらから顔を見せに行きますと、先生に言付けをお願いしていた。
矍鑠とされていた閣下が寝込むようになられたのは年齢のせいもあるが……
気落ちされたからだろう。
その責任の一端は俺にもあるから、心苦しい。

公爵閣下は口では家出をしたノイエを許さないと広言したが、彼の事は可愛がって目をかけていた。
閣下の急激な老いは、ノイエのせいであり、それを後押しした俺のせいでもあり。 
彼に送る手紙には閣下の現状を綴ろうと思った。
それを知って、国に帰るかどうかはノイエ本人が判断すればいい。


「お見舞いありがとうございます」

先生が自身の私室に向かう為、俺を先導して、見慣れたストロノーヴァ家の長い廊下を歩く。


「父から聞いた話ですが、当代も若かりし頃は、家を出た事があるそうです」
 
「公爵閣下が、ですか……」

「誰もが、この家から。
 この名前から一度は逃げ出したくなるんですよ」

「……」

「私の場合は、行く先も期限も伝えて出ただけなので。
 あれは家出とは言わんと、当代には笑われました」

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