この胸が痛むのは

第96話 アシュフォードside

本当は……情けない話だが、踵を返して邸内へ
戻りたかった。
そこで散歩から戻ってくるアグネスを、迎えた
かった。
温室から逃げ出したかったのだ。

だが……
アグネスの背中が見えた。
歩くというよりは彷徨う様な、漂う様な。
その足取りに不安を感じた。


「アグネス、ここに居たのか」


彼女がゆっくりと振り向いて、俺の姿を認めた。


「いらしていたのですか……
 私、お出迎えもしなくて……」

昼食はごく少量だけを食べたと、聞いていた。


「出迎えなんかいいんだ。
 時間が出来たから、会いたくなって来たんだ。
 俺も、ここに来るのは久し振りだ」

話しながら手を伸ばし、儚げなアグネスを抱き締めた。
捕まえておかないと、消えそうな気がしたからだ。
すると、彼女が俺を見上げて。
いつものように口付けをしようとして、違和感に襲われた。

どうしたんだ? いつものアグネスじゃない。

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