この胸が痛むのは
「俺もこの一杯だけいただいたら、帰るよ」

殿下が帰ると仰せになったので、私は安堵致し
ました。
また頭痛が戻ってきて、今度こそ休まなくては
と思ったからです。
殿下に充分な応対を出来なかったことを申し訳 なく思いながらも、とにかく帰っていただき
たくて。

殿下がこちらに何をしに来られたのか、自分が それに対してどうしたのか、全然覚えていない
のも居心地が悪くて。
この頭痛が取れたら明日にでも、お詫びに甘くないお菓子を焼いて、執務室までお届けにあがろうと思いました。


殿下と護衛騎士様を乗せた王家の馬車が帰っていかれました。
護衛騎士様はいつもなら雨の日でも馬で並走なさるのに、今日は同乗されていて、少し変だと思いつつも、考えるのは止めました。


思考があちらこちらに飛んで、行動がちぐはぐになっているのが自分でもわかりました。
休みたいと思っていたのに、私はロレッタの姿を探して、彼女に金貨を差し出しました。


姉のワードローブの中から、美しい紫色のドレスを持ち出して。
私は姉になるのです。
本当は依り童に死人を招き入れて、術者や立ち会い人が会話をするのですが、ロレッタにそんなことは頼めません。
ましてや、自分が会話をする為にこの役を押し付ける事も。

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