この胸が痛むのは
終演後、ノイエは皆と握手した。
エリザベート以外とは、あまり交流はなかったのに、演出担当の女生徒や美術担当の男子生徒、
3年生や1年生、皆と握手し抱き合った。

皆で作った舞台、全員で作り出した世界。
このまま、この世界で住み続けたい。
だが……

最後の挨拶で、これまでのお礼を口にした。
皆の支えがあったから、能力以上の力を発揮出来たと。
皆が泣き、ノイエも泣いた。
これから来年に向けてがんばりましょう、そう
言われて。

……これが最後だと話した。
両親からも言われた、今回だけだと。
エリザベートの頼みだからと、シュテファンが
味方に付いてくれたから、見逃してくれただけ
なのだ。

オルツォの人間が舞台など。
別の人生を演じるなど。
その時間は将来の為に使わねばならない。

残念です、皆そう言ってくれた。
ノイエは時間をかけて衣装を脱ぎ、丁寧に舞台
メイクを落とし、いつもの自分に戻ったが、
ここから離れたくなかった。
まだ興奮が抜けていなかった。


今の自分は両親の庇護下のガキだ。
家名から与えられるものは多く、物心共に恵まれている。
今直ぐに飛び出しても、自分は潰れるだけなのもわかっている。
だけどいつか、俺はこの場に戻ってくる。


必ず、時間がかかっても、戻ってくる。
そう決意した時に、声をかけられた。


振り返れば、アグネス・スローンが立っていた。


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